二重母音や三重母音については以前の記事に論じてある。

この記事の最後の部分にr-coloringについて触れたが、今回は、それを補うために、あらためて、r-coloring と R性母音について考察してみたい。

R性母音

R性母音とは、母音+rの綴りからなる母音であって、アメリカ英語に見られる特徴である。短母音、R性二重母音、R性三重母音がある。

アメリカ英語では/ɚ:/の発音記号が使われる。そして下の画像で見られるように二つの種類がある。一つは(A)盛り上がり舌母音(bunched vowel)である。舌の後部が盛り上がるのである。もう一つは(B)そり舌母音(retroflex vowel)であり、舌先が反り返って硬口蓋に近づくが触れはしないのである。(A)も(B)も同じに聞こえる。アメリカでは、盛り上がり母音(A)を使う人が多い。

出典『英語音声学入門』p.39大修館書店

なお、イギリス英語では、単に /ə/の音色を持ち、非R音性的であると言われる。

記号

R性母音を示すために、IPAでは、( ˞ )のカギが母音の右側に付く。つまり、/ə/につくならば/ɚ/となる。その例は、hearse, assert, mirthなどの語である。

/ɑ/がR性母音となるならば、/ɑ˞/となる。その例は、start, carなどの語である。

/ɔ/ならば、/ɔ˞/となり、その例は、north, war などの語である。

しかし、1989年のキール会議でr性母音を示すのに、/ɚ:/を母音の右に付けることになり、r-coloringを示すのに、/ɑɚ:/のように表記されることになった。

なお、/ɚ/と/ɚ:/の二つの記号が見られるが、前者は短母音、後者は長母音と認識されるが、舌の位置、音質は同じであると考えてよい(松坂ヒロシ『英語音声学入門』p.39研究社)。

シュワ

曖昧母音としてシュア(schwa)がある。中舌で口の開きの度合いも中間的な中央母音 /ə/ を指す。アクセントのない弱母音であり、母音の中で一番よく現れる。緊張がとれた状態であり、舌の位置はもっとも楽な位置に現れる。

シュワとは /ə/であるが、アメリカの音声学者であるJohn Samuel Kenyon がこの /ə/の右肩にhook を付けた。当初はカギが上に付いていたが、一筆で書けるように現在の/ɚ/に改められた。(『英語音声学入門』大修館書店 p.75)これは半母音/r/とまったく同じ調音になる。

/ə/では、舌が中央にあるが、/ɚ/では舌がかなり高くなりr音の位置まで高まる。

/ɚ/と/r/音の関係

/ɚ/と/r/音は同じであると考えられる。これはアメリカ英語の特徴になる。

二つの発音記号が存在している。hear ならば、/hɪər/と表示されることもあれば、/hɪɚ/と表示してもよい。イギリス英語では、/hɪə/となって舌が/ə/の位置に留まり、アメリカ英語のように舌がさらに上にゆくことはない。