英語の文末焦点と文末重点(この記事は、2015年10月16日の同じタイトルの記事に若干加筆したものである)            

英語には文末焦点の原理(principle of end-focus)という原理があります。これは英語の情報構造と関係して、情報価値の高い部分が文末におかれるという原理です。文頭に、話し手と聞き手の知っている旧情報(given information)をおいて、最後に聞き手の知らない新情報(new information)をおきます。そこが文の一番述べたい箇所で焦点が当たるのです。一方、旧情報を表す部分は、前の文に出来るだけ近いところ、ふつうは主語のところに現れます。それは、旧情報は前の文の内容を受けつぐものですから、前の文に近いほど聞き手の記憶の負担が軽くなり、会話の流れがよくなるからです。

相手に伝えたい情報(情報価値の高い情報/新情報)を文末におくために、英語の文では、受動態や擬似分裂文、あるいは倒置文にするなどの操作によって重要な構成素を文末に移動させています。次の例文の下線部を見て下さい。ここでは、旧情報→新情報の流れとなっていて、文末の下線部に焦点が合っています。

(1) This poem was written by Wordsworth.(この詩はワーズワースによって書かれた)
(2) What I want is money. (私がほしいのはお金だ)
(3) Then came the second blow. (次にやってきたのは第2の打撃だ)

ところで、日本語ではどうでしょうか。日本語の文では動詞が文末に来るという特徴があります。焦点が当たるのは、動詞の直前にある語句が多いようです。下線部に焦点が当たります。

(4) 私は太郎にその本を渡した。
(5) 私はその本を太郎に渡した。
(6) その本を太郎に私が渡した。

ところで、英語には、「重い」要素をできるだけ文末近くにおいて、頭が重たくなることを避けようとする傾向があります。これを「文末重点の原則」(principle of end-weight)と呼びます。長い語句(重い要素)が先に出てくるとその内容を覚えていられません。その意味では、長い語句を文末に置くことは記憶の効果をあげるという点から当然なことと考えられます。次の例文を見てください。目的語は短い(軽い)ときは、(7)(8)のように副詞句that very dayよりも前にありますが、(9)のように目的語が長く(重く)なると、後ろに移動します。

(7) She visited him that very day.(彼女はまさにその日彼を訪ねた)
(8) She visited her best friend that very day. (彼女はまさにその日自分の最上の友人を訪ねた)
(9) She visited that very day an elderly and much beloved friend. (彼女はまさにその日に年配でとても敬愛している友人を訪ねた)

さて、英語のこの2つの原則ですが、互いにどのように関係するのでしょうか。実は、文末焦点(旧情報→新情報)と文末重点(軽い要素→重い要素)の2つの原則は矛盾するのではなくて、両者が一致する場合が多いのです。旧情報を担う要素は代名詞化されたり省略されたりして軽くなりますが、一方、新情報を担う部分は大切なので複雑で重くなる傾向があります。それらの例をいくつか見ていきましょう。いずれも、下線部の重い部分は文末に移動します。

(A)関係副詞節の文末への移動
(10) The day when you’ll regret it will come.
→(11) The day will come when you’ll regret it. (あなたが後悔する日が来るでしょう)

(B)補部節の外置
(12) I feel sorry for her, but the fact that she lied to us remains.
→(13) I feel sorry for her, but the fact remains that she lied to us. (彼女のことは気の毒だと思うが、彼女が我々に嘘をついたという事実は残る)

(14) A rumor that the teacher is ill has been circulating.
→(15) A rumor has been circulating that the teacher is ill.(その先生は病気だという噂が流れている)

(C) for+目的語+to doの構造の後ろへの移動
(16) For you to ask John would be the best thing.
→(17) It would be the best thing for you to ask John.(あなたがジョンにお願いするのが最上の方法です)

なお、この文で、forはもともとは「~にとって」の意味でしたが、「for X to動詞」という句が定着したために、意味上Xが主語として、「Xが何々をする」という意味に見なされることが多くなりました。ただし、発話する場合ですが、for X のあとに、ポーズがあれば、for は「~にとって」と訳します。

(D)所有型とof構文の選択
所有型かof構文の選択はしばしば、文末重点の原則から説明されることができます。アポストロフィのかかる部分が長いと of構文にして文末に移動します。下記の文では、(18)よりも(19)の方が自然と考えられます。
(18) I found my great grandfather’s maid’s purse.
(19) I found the purse of my great grandfather’s maid. (私は曾祖父のメイドの財布を見つけた)

(E)It が形式主語となるthat節の移動
文末に焦点を合わせるために、主語を後方に移動します。主語や目的語が長い場合はitで置き換えますが、これは、文末焦点の原理、つまり焦点を後ろの要素に合わせるために文末へ移動するとも考えられます。

(20) That she was killed in a traffic accident surprised us.
→(21) It surprised us that she was killed in a traffic accident.(彼女が交通事故で亡くなったことは私を驚かせた)
上の二つの文で、(20)が(21)よりも好まれる場合がありますが、それは、下線部がすでに聞き手と話し手の両者の間での周知のことで、ほとんど情報価値のない(旧情報である)場合です。

(F)目的語の後ろへの移動
目的語の位置にあった句を後ろに下げます

(22) You must find working here enjoyable.
→(23) You must find it enjoyable working here. (ここで働くのは面白いと思うはずです)
(24) What she looks like doesn’t matter.
→(25) It doesn’t matter what she looks like. (彼女がどんな風かは関係ない)
ここでも、itで主語や目的語を置き換えて、真の主語や目的語を文末に持って行くことは、結局は情報価値の高いものを後ろに置こうとすることと同じことです。

(G)統語的な制約内での移動
ただし、重たい要素で、情報が詰まっていても統語上の規則で文末までは移動できない場合があります。sleeping on the sofa for three hoursは重たい要素ですが、せいぜいgirlの前から後ろへと移動することができるだけです。

(26) A sleeping girl is my daughter’s friend. (寝ている女の子は娘の友人です)
(27) A girl sleeping on the sofa for three hours looks sick.(ソファに3時間も寝ている女の子とは病気のように見えます)
次の(28)の文では、a womanだけでは文末にいくことは不自然です。しかし、a woman in whiteのように、修飾する語が付け加わり情報価値が高くなる(=複雑になり重たくなる)と文末に移動します。
(28) I met a woman yesterday.(私はある女性に昨日会った)
(29) *I met yesterday a woman.
(30) I met yesterday a woman in white.(私は白い服を着た女性に昨日会った)
(31) John put all his books in his car.(ジョンは車に自分の本を全部積んだ)
(32) *John put in his car all his books.
(33) John put in his car all the boxes of his books.(ジョンは車に自分の本の入った箱を全部積んだ)

(G)To不定詞と動名詞
To 不定詞と動名詞が先頭に来る場合についても考えてみましょう。次の二つの文を比べてみます。

(34) To explain how I felt is difficult.(私がどんな気持ちでいるかを説明するのは難しい)
(35) It is difficult to explain how I felt.

前置詞のtoですが、「~に対して、~に向かって」という原義があります。そこからto 不定詞は、「~に向かって~する」という意味に発展して、「未来や可能性」を表すことが多いのです。そのために、to不定詞は新情報を示すことが多いのです。それゆえに、(34)よりも、(35)のように、文末に持って行く方が自然と考えられます。さらに、これは文末重点の原理が働いているとも考えられます。
一方、動名詞は「現実、一般的」なことが多いので、相手も納得済みのことを示すことが多く、旧情報が多いので、文の先頭にくることが多いのです。

(36) Having an e-mail friend is easy and popular today.(今日、メール友達を持つことは簡単で普及しています)

以上、まとめると、文末に来るのは、新情報=情報の価値の高い部分=複雑で長い部分=重い部分です。英語はできるだけその部分を後ろに来るように工夫がなされています。英文を読むときは、情報の流れはどうなっているか、そんなことを意識しながら読んでみると、色々と面白い発見があるはずです。