(10) 思考動詞と事実動詞
動詞の中には、思考動詞と事実動詞と言われるものがあります。思考動詞とはI think that she is a liar.(彼女は嘘つきだと思う)のようにthat節で思考の内容を伝える動詞です。believeやsupposeも思考動詞です。一方の事実動詞はI know that she is a liar.(彼女は嘘つきであることを知っている)のようにthat節で事実と考えている内容を伝える動詞です。recognizeやrealizeも事実動詞です。この章では、これらの動詞を見ていきましょう。
☛思考動詞の主な特徴ですが、以下の点が挙げられます。
○接続詞のthatが省略されることがしばしばあります。
○目的語としての that節を支配する力が弱いです。
○他動詞の特徴である受身文が作れないことがあります。つまり、目的語へ働きかける力が弱いのです。
○思考動詞におけるthat節は、補語に近い働きをします。
13-2 that節とは何か
基本的に、that節とは、事実であることを示す構文です。そして事実内容を示している文ではthatを省略することは稀になります。 下の文ではthatは省略されない。
(a) He realized that he had made a serious mistake.
(b) I learned that he committed suicide.
(c) He forgot that you were coming.
(d) That he divorced his wife was known to all the villagers.
☛事実性が重んじられる学術論文ではthat節が多用されます。英語の卒論はthatを使う。
13-3 thatの省略(思考動詞)
思考動詞においては、thatはしばしば省略されます。とりわけ、口語においては省略されることが普通です。それは客観性・事実性の高いthat節は思考動詞にはそぐわないので、thatが省略されるからです。また従節は思考動詞の内容であるという意識が弱くなり、従節の独立性が高まるのです。このことは、(d)~(f)のように、従節が主節になることからも窺えます。ただし、(g)のように積極的に自分の信念を表明しているときは異なります。
(a) I think (that) Hanako is intelligent.(花子は賢いと思います)
(b) I believe (that) Taro is the man for the job.(太郎はその仕事に適任だと信じます)
(c) I expect (that) he will win the election.(彼がその選挙に勝つことを期待する)
(d) Hanako is intelligent, I think. (花子は賢い、と思う)
(e) Taro is the man for the job, I believe.(太郎はその仕事に適任だ、と信じる)
(f) He will win the election, I expect. (彼がその選挙に勝つだろう、と期待する)
(g) I believe that there is a God. (私は神が存在すると信じます)
13-4 付加疑問文と思考動詞
付加疑問文とは念を押すために疑問形を付加する文です。主節が肯定文なら、否定の疑問形が付加され、主節が否定文ならば、普通の疑問文が付加されます。このように肯定と否定が逆になります。ところで、(a)では、I supposeが主節なので、付加疑問はdon’t I?となるべきですが、それが、didn’t theyとなってきます。つまり、the Tigers wonの部分が主節のように扱われていて、思考動詞の使われる主節が軽くなっています。
(a) I suppose the Tigers won, didn’t they?(タイガーズは勝ったよね)
(b) I suppose the Tigers didn’t win, did they?
(c) I don’t suppose the Tigers won, did they?
13-5 二つの要素の否定
(a) I don’t think it is true.
(b) I think it is not true.
否定できる箇所が主節と従節に2つある場合は、意味に変化が起きない限り、主節のほうを否定するのが通例です。日本語で、後ろに否定語がおかれる文「それは本当ではないと思う」のような文があれば、該当する英文としては日本人は(b)をよく選びます。しかし、自然な英文となると(a)のように否定語が前に移動した文になります。これは、thinkの場合は、従節のthatは区切りとしての力が弱いので、否定のnotがthatを越えて前に移動するからと考えられます。
なお、一般にany ~ notの構文は不自然とされ、(c)のように冒頭に否定語を持ってくる構文が好まれます。
(c) Nothing will stop us.
(d) *Anything will not stop us.
13-6 Hopeの否定
従節の否定を主節に繰り上げても良いと述べましたが、hopeでは、that節のnotはそのままにしておきます。それは、hopeは希望の意味を示し常に肯定的な意味を持つので、否定の形になりにくいからです。逆にfearには否定の色合いが付いている。
I hope he will not come to our house.
*I did not hope that he will come to our house.
☛hope, fearなどの場合は、従節の中の否定語を主節の中へ繰り上げることはできないと一般化できましょう。I fear he will not come. (私は彼は来ないと思う) I hope he is not very ill.(私は彼がひどい病気でなければと思う)。これらの文は、*I don’t fear he will come. *I don’t hope he is very ill.で置き換えることはできないのです。そのように否定になりにくい動詞として、hope, wish, guess, fancy, be afraid of, fear, trustなどがあります。これらの動詞では否定の時は従節にnoを使いることが多くて、主節では否定の形は使われません。
13-7 能動性が弱いこと
思考動詞(ideative verb)は能動性が弱いので、主語と目的語の対立が弱くなります。そのために、受動態にしたときの主語は、itであって、that節にはなりません。
*That Mary is intelligent is thought by me.
It is thought that Mary is intelligent.(メアリーは頭がいいと思われている)
しかし、that節が客観性の強い場合はthat節が主語になります。なお「客観性の高い」とは、例えば、自分以外の人が思考するような場合です。
(a) That Mary is not happy is believed by them. (メアリーは幸せでないと彼らに信じられている)
(b) That Mary is happy is not believed by them.(メアリーは幸せであるとは彼らに信じられていない)
ここでは、思考している人の能動性がはっきりしているので、by themという動作主の表現がなされています。that節の中は、事実の表現ですので、(a)と(b)では、意味が異なってきます。能動性の弱いbelieveやthinkに見られる否定詞の移動は、この場合は不可能です。
13-8 that節から直接目的語+不定詞句の構造への変換
思考内容よりも、思考しているという動作・作用に重点が置かれるときは、that節を直接目的語+不定詞句の構造に書き換えることができます。
I think (that) Mary is intelligent. (メアリーは頭がいいです)
I think Mary to be intelligent. (メアリーは頭がいいと思う)
I think Mary intelligent. (メアリーは頭がいいと私はたしかに思う)
13-9 knowという動詞の主観性と客観性
動詞knowは、事実性・客観性の高いthat節を目的語としていますが、that節の内容によっては、主観と客観の関係が動詞と合わないで非文になる場合があります。
(a) I know that Mary is married. (私はメアリーが結婚しているのを知っている)
(b) *I don’t know that Mary is married.
→(b)ですが、that 節の代わりにwhether節が入るのは正用法です。I don’t know whether Mary is married or not.
that節は客観性が高いので自分自身が知らないという意味の(b)はおかしくなります。しかし、次の(c)-(e)では、客観性が高まるのでthat節を用いることが可能になります。
(c) He doesn’t know that Mary is married.(メアリーが結婚しているのを彼は知らない)
(d) I didn’t know that Mary was married.(メアリーが結婚しているのを私は知らなかった)
(e) That Mary is married is known by everyone. (メアリーが結婚しているのは、みんな知っていた)
(f) That Mary is married is known to everyone.(メアリーが結婚しているのは周知のことだった) これは、(e)と同じ意味すが、「~された」という動作性が弱まっています。ここではknownは形容詞化された過去分詞なのです。
13-10 事実性の強さ
動詞では、knowのように客観性が高いのか、thinkのように主観性が強いのかによって、統語的な機能が異なっています。thinkとknowの用法の違いを比較してみます。以下の文では、what節はdoの目的語です。
(a) What do you think you have to do?(あなたは何をしなければならないと思いますか)
(b) Do you know what you have to do?(あなたは何をしなければならないか知っていますか)
(a)ですが、もともとはwhatはthinkの後ろにあったと考えられます。しかし、thinkはwhat節を支配する力が弱く、またwhat節の事実性が弱くて、whatが主節と従節の区切りとなる力は弱いので、whatが文頭に出たと考えられます。(b)では、knowのwhat節を支配する力が強いので、whatは従節の中に留まります。
さらに代用形はthinkのときは、soが次に来ますが、knowの時は、thatが来ます。これは、thinkの場合は主語と目的語の対立構造が弱いのでsoをとると考えられます。
I think so.(私はそう思う)
I know that. (私はそれを知っている)
13-11 seemの場合
非人称動詞seemは、思考動詞と同じような特質があります。まず、次の例文を見ていきましょう。
(a) It seems that I have caught a cold. (私は風邪をひいたようだ)
(a’) I seem to have caught a cold.
(b) It seems that he was late for the train.(彼は列車に遅れたようだ)
(b’) He seems to have been late for the train.
各組の上の例文(a),(b)では、従節が思考内容の表現ですが、下の例文(a’)(b’)では、従節の主語が文主語となっています。また、(a)(b)ではthatが使われているので事実性が高いのですが、 (a’)(b’)では、事実性は弱まっています。このように、上下各組の文の意味は若干異なります。(a’)(b’)はより主観的なニュアンスが強くなります。
思考動詞thinkでは、否定詞の移動が可能でしたが、seemでも同じです。とりわけ口語的な文体では否定語は主節にくることが多いのです。
It seems that John is not ill. (ジョンは病気には見えない)
It doesn’t seem that John is ill.
John seems not to be ill.
John doesn’t seem to be ill.
13-12 seemにおけるto beの省略
客観的なことを述べているときは(例えば名詞がくるとき)、to beの省略は起こりません。一方、主観的な評価がはいるときは(例えば、形容詞がくるとき)は、to beは省略できます。to beがあることで文の構造が明らかになり客観性が高まるからです。
He seems to be Japanese.(彼は日本人のようだ)
He seems to be a doctor.(彼は医者のようだ)
He seems a good doctor. (彼は腕の良い医者のようだ)
He seems happy.