受動文と能動文

どのような時に受動文が使われるか

自然な言語は、人間中心にできていて、能動文のように、動作主である人間が主題になって、それについて述べるのが自然な形です。受動文はこの一般的な傾向と逆になりますので、受動文が作られるときは何か特別な意図があります。

どちらを選択するか

一般に、能動文と受動文のどちらを使うかは文脈から判断できます。
(a) Taro broke this window. (太郎はこの窓を壊した)
(b) This window was broken by Taro. (この窓は太郎によって壊された)
(c)(d)に続く文として、(a)(b)のどちらが適切な文として選ばれるかという点ですが、(c)のあとでは(a)が、(d)のあとでは(b)が自然となります。
(c) Do you know what Taro did this morning? (太郎が今朝何をしたか知っていますか) →太郎について論述しているので、次にくる文は太郎を主題にした文が適切です。
(d) Just look at this window.(ちょっと、この窓を見てご覧なさい)→窓に注目をさせているので、次にくる文は窓を主題にした文が適切です。

☛Just then Mary came in. (ちょうどその時、メアリーが入ってきた)
この文に続くのは(e)と(f)、どちらが自然であるかというと、主語が同じで連続性があるので、受動文の(f)であると思われます。
(e) Her mother accompanied her.
(f) She was accompanied by her mother.

動詞の焦点化

動詞は主語の次に来ることが多いので、動詞を焦点化することは難しいです。しかし、他動詞の場合は受動文にすることで、そうした焦点化をすることができます。受動文ならば動詞を文末にさげて焦点化することが出来ます。(a)では、all these problemsに焦点が当たりますが、(b)文では、solvedに焦点が当たっています。
(a) But our scientists finally solved all these problems.(しかし、私たちの科学者たちはついにこれらの問題をすべて解決した)
(b) But all these problems were finally solved. (しかし、これらの問題をすべて解決された)

受動文が使われる場面

受動文が好んで使われるのは、情報構造とは別に、以下のような場合もあります。
まず、内容を曖昧にしたい場合です。とりわけ、主体を明示したくない時に使われます。
(a) Your salary will be reduced next month.
(b) I will reduce your salary next month.
経営者が社員の給料の削減することを述べていますが、(b)では、削減する主体を明らかにして、自らの責任をはっきりと述べてしまいますが、(a)では、主体を曖昧にして、自らの責任を曖昧にする効果があります。
能動文の主語が不明なときも、受動文が使われます。下の例文では、誰が彼を殺したのか不明ですので、受動文にして、さらに「by+行為者」を省くのが普通です。
He was killed in the Second World War.
能動文の主語よりも受動文の主語に大きな関心が寄せられているときも受動文が選ばれます。下の例では、(c)では、雷より人の住んでいる家の方に、(d)では、車よりも息子の方に強い関心が寄せられています。
(c) The house was struck by lightning.
(d) His son was run over by a motor car.

受動文とby+行為者

英語において受動文が使用されるのは、受動者を文頭に持って行き、話題(topic)にして、それについてコメントしたい場合ですので、「by+行為者」は、表現されないことが多くなります。
ただし、「by+行為者」が新情報となって、焦点となる場合は、必要であり、省略できません。例えば、Who was John brought up by?などと聞かれている場合を考えてみましょう。当然(a)のようにby his auntを含めるのが自然となります。(b)のように「by+行為者」を省くのは、この場合は不自然となります。
(a) John was brought up by his aunt.
(b)*John was brought up.

もともとの文Was John brought up by whom?から→Whom was John brought up by? →Who was John brought up by?と考えられます。文法的には、Whomが先頭に来るのが正しいのですが、文頭は主語(主格)にくるのが本来の姿であるためにWhoになったのです。同様にもともとはIt is I.という表現は動詞の次にくるのは目的格が普通なので、It’s me.となったのです。

by+行為者

byのあとに来る語句は、まわりの状況を変える力があるものと考えられます。また、まわりの状況を変える力があるものは情報量が高いので焦点をあわすために文末にくるとも考えられます。
(a) ?The town was visited by Tom.
(b) The town was visited by a lot of people every year.

(a)では、トムが訪れたぐらいでは、その町には何の変化も起こりません。しかし(b)文では、毎年たくさんの人が訪れるので、その町は有名になり、町も栄えたというふうに町にも変化が期待されます。byのあとに来る行為者によって何かの影響を受けたという風に考えられます。
また、特徴づけがなされる場合も、同じことが言えます。
(c) *The condominium was lived in by a man.
(d) The condominium was lived in by Yoko Ono.
マンションはある男が住んだくらいでは特徴づけられませんが、オノヨーコ(ジョンレノンの妻)が住んだマンションとなれば、立派に特徴づけられたことになります。

主題になったら既知の意味が出てくる

主語(=主題)となる語句は旧情報として「既に知られている」ことであるというニュアンスが生まれてきます。ここで次の二つの文を比較しましょう。
(a) Everyone in this room knows two languages.(この部屋のみんなは2つの言語を知っている)
(b) Two languages are known by everyone in this room.(2つの言語はこの部屋のみんなに知られている)
(a)の文では、2つの言語は何の言語でもいいが、(b)の文では、2つの言語はすでに特定の、既知の言語を示すように感じられます。つまり先頭にtwo languagesという表現がきたら、既知というニュアンスが強くなり、話し手と聞き手が互いに知っている2つの言語であると感じられます。
knowは状態を表す動詞ですのでknown to everyoneが普通ですが、動作を表す意味が強くなると動作主はbyを使います。

目的語に節が来る場合

能動文において動詞の目的語がthat節やwhetherやhowで導かれる節の場合は対応する受動文は形式主語のitを取ることが多いのです。
We must remember that we were attacked by our enemy.
It must be remembered that we were attacked by our enemy.
受動文の主語にthat節がそのまま残るのは、多くの場合、that節の中身が互いに了解済みの事項(旧情報)であるときです。
That Soseki wrote this poem is certain.(漱石がこの詩を書いたことは確かだ)→漱石がこの詩を書いたことは、すでに聞き手も話し手も互いに了解済みです。