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旧情報と新情報の例(There is 構文)
There is構文
「~がある」という意味を示すのに、there is 構文があります。There is a pen on the table.(テーブルの上にペンがあります)という文は、thereが修飾語、isが述語動詞、a pen が主語、on the tableが修飾語句という構造をしています。ここでは主語と述語動詞が倒置されています。このthereは常に弱く発音されて/ɚə/、「そこに」という意味はありません。there には、実質的な意味はなくて、単に形式的に置かれているだけです。 (a)~(c)がその例文です。
(a) There was a large audience in the auditorium.
(b) There was no doubt about it.
(c) There is no accounting for tastes.
There is 構文の情報構造
(a) *A book is on the desk.
(b) The book is on the desk.(その本はその机の上にあります)
(c) There is a book on the desk.(机の上に本があります)
There is構文は、情報構造がはっきりと現れています。たとえば、(a)は「机の上に一冊の本がある」という意味の英文ですが、不定冠詞をつけたa book(新情報)が冒頭に出てきて、やや不自然な印象を与えます。
一方、本がすでに話題になっている場合は(b)のようになります。(b)の意味は [先ほどから話題になっている]その本は机の上にあります)です。前の文を受けて定冠詞が付いているthe book(旧情報)が先頭に来るのは、情報構造の点から望ましいのです。
さて、(a)のように、a book(新情報)が先頭に来るのを避けるためには、導入部分として、(c)のように、there isから始めて、それに続けてa bookを持ってくるのが普通です。 (c) There is a book on the desk.(机の上に本があります)
このように、There is構文とは、主語が聞き手にとって未知情報で主題にするのに不適当な場合、実質的な意味をもたないthere(虚辞)を主題の位置である文頭に置いたものです。 (a)を倒置した文On the desk is a pen.ならば、旧情報→新情報という流れにそうので問題はありません。しかし、(b)を倒置にした、On the desk is the pen.あるいは、On a desk is the pen.ならば、旧情報が最後に置かれることになり不自然な感じとなります。
虚字のthere
thereは虚字であっても、主語の位置にあるために、名詞句として機能します。具体的には、yes/no疑問文や付加疑問文の主語になります。
(a) Is there any more coffee?
(b) There’s nothing wrong, is there?
また、不定詞、分詞、動名詞などの主語になります。
(c) I don’t want there to be any trouble. (もめ事はいらない)
(d) There being nothing else to do, we went home. (何もすることがなかったので、私たちは帰宅した)
さらには、受動文の主語になります。
(e) There is believed to be a murderer among us. (我々の中に殺人者がいるようだ)
be動詞以外の動詞
There is 構文には、be動詞以外にも「出現」を示す自動詞appear, arise, come, exist, follow, happen, lie, live, remain, stand等が使われます。
(a) There comes a time when you have to decide.
(b) There comes a taxi!
(c) Once there lived a king and a queen on the high mountain.
(d) There appears to be a shortage of paper.
(e) There happened to be a full moon that night.
不適切さの度合い
不定冠詞+名詞が先頭に来る文はやや不自然と述べましたが、その不自然さの程度は抽象的な名詞になれば、より強まります。実体がある物ならば、両方の文はある程度は可能ですが、抽象的な名詞になると there is 構文だけが許されるのです(Huddleston 2002: 1397)。
(a) A furniture van was in the drive. →There was a furniture van in the drive. (通りに家具を運ぶ車がとまっている)
(b) Two copies of Sue’s thesis are on my desk. →There are two copies of Sue’s thesis on my desk. (机の上にスーの論文が二つあります)
(c) *Plenty room is on the shelf. → There’s plenty room on the shelf. (棚の上にはたくさんのスペースがあります)
(d) *Sincerity was in her voice. → There was sincerity in her voice. (彼女の声には誠実さが感じられた)
(e) *Peace was in the region. → There was peace in the region.(その地域には平和があった)
(f) *An accident was in the studio. → There was an accident in the studio.(そのスタジオで事故があった)
There is 構文はかなり特異な構文です。あえて言えば、第1文型(SV型)ですが、かなり特異な構文なので、そこに分類しづらい面があります。しかし対応する文、例えば、There is a pen on the table.ならば、*A pen is on the table.という文と一緒に考えていけば統一的に理解することができます。つまり、A penという不定冠詞がついた名詞が文章の先頭にくると、やや不自然な構文と意識されますので、虚辞であるthereを先頭に立てて、情報の流れを旧情報→新情報となるようにしたのです。