2015-11-16

動詞が目的語に及ぼす影響

動詞には目的語をとる動詞(他動詞)ととらない動詞(自動詞)があります。動詞が目的語にどのように関係するか考えてみましょう。動詞は目的語に直接かかわる場合と前置詞を挟んで目的語に関わる場合もあります。この両者を比較するとその働きが若干異なります。以下、この章は久野・高見(2005)と田中他(2007)の説明によります。

(a1) He swam the river.  (川を泳いだ)
(a2) He swam in the river. (川のどこかで部分的に泳いだ)

(b1) He knocked the door.  (彼はドアを[壊すぐらいに強く]叩いた)
(b2) He knocked on the door. (彼はドアを[単に]ノックした)

(c1) He chewed his pencil. (彼は鉛筆を[口に入れて、がちゃがちゃ]噛んだ)
(c2) He chewed on his pencil. (彼は鉛筆を[軽く]噛んだ)

(d1) The horse kicked me. (馬は私を蹴った)
(d2) The horse kicked at me. (馬は私を蹴ろうとした)→atは目標や狙いの意味

(e1) The batter tried to hit a ball. (打者はボールを打ってみた)
(e2) The batter tried to hit at a ball. (打者はボールを打とうとした)

これらの各組はおうおうにして同じような日本語訳となりますが、厳密な意味は微妙に異なってきます。それは動詞が目的語に及ぼす影響が全体的か部分的かという違いがあるからです。各組の上の文(動詞が目的語に直接関わる場合)は動詞が目的語に対して全面的な影響を与えたというニュアンスがありますが、各組の下の文(動詞が前置詞を挟んで目的語に関わる場合)は目的語に対しての影響は限定的というニュアンスがあります。

他動詞の場合は対象に対する影響は直接的だが、自動詞で前置詞が挟まれると影響が間接的になると言ってもいいでしょう。たとえば、(d2)や(e2)のように、atが入ると、狙ったのですが、蹴りそこねた、あたりそこねた、というニュアンスが生まれます。

(f1) Taro loaded the truck with a lot of books.(太郎はトラックにたくさんの本を積んだ)
(f2) *Taro loaded the truck with some books. 
(f3) Taro loaded some books on the truck. (太郎はトラックに本を何冊か積んだ)

(f1)のloaded the truckでは、truckに大きな影響を与えた、つまりloadにはトラックがいっぱいになるほど本を積んだという含意がありますので、a lot of booksという語句とは合いますが、(f2)のようにsome booksという語句とはそぐわないので、(f2)は非文となります。しかし、(f3)では、loadとthe truckの間にはonという前置詞があり、load on the truckという形になっているので文として成立します。

(g1) John sent Mary a letter.
(g2) John sent a letter to Mary.
(g3) *John sent Mary a letter, but she did not receive it.
(g4) John sent a letter to Mary, but she did not receive it.

上の文で(g1)とは、Maryに対する影響が全人的なので、手紙を受け取ってかつ読んでいると考えられます。それに対して(g2)では、単に送ったというだけの含意です。そこから(g3)は、成立しませんが、(g4)の文は成立します。

二重目的語構文のもう一つの説明

二重目的語は所有の概念での説明も可能です。二重目的語構文では間接目的語が直接目的語を所有するようになったという意味を含意します。

(a) John taught French to Mary. 
(b) John taught Mary French.

(a)では、JohnがMaryにフランス語を単に教えたという意味だけを示しますが、(b)には、一歩進んでMaryがフランス語を習得したという意味まであります。つまり、Maryがフランス語を所有するようになったことまで示しています。(a)では、John taught ~ to Maryと前置詞を挟んでいるのでJohnのMaryへの影響は限定的です。一方の(b)では、間接目的語であるMaryがtaughtのすぐ後にきていますので、JohnのMaryへの影響は全体的で大きいのです。

(c) Mother fixed us lunch. (母は私たちにランチを作る)
(d) *Mother fixed us the old clock.
(e) Mother fixed the old clock for us. (母は古い時計を私たちのために修理する)

(f) John opened Mary a beer can. (ジョンはメアリーのために缶ビールを開ける)
(g) *John opened Mary the door.
(h) John opened the door for Mary. (ジョンはメアリーのためにドアを開ける)

(c)では、母が私たちにランチを作るということで、私たちがランチを所有するという関係ができますので文は成立します。しかし、(d)では、私たちのために古い時計を修理するという意味ですが、それによって、時計を所有するようになったのではないので、不自然な文となります。(e)のようにしなければなりません。 (f)は、Maryが目的語であるa beer canを所有するという関係が見えますが、(g)ではMaryがthe doorを所有することはないので不適切な文となります。

photo credit: Summer time! Zorita de los Canes HDR via photopin (license)
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